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金沢家庭裁判所 昭和47年(少)1070号 決定 1973年4月14日

少年 J・R(昭三一・一〇・一二生)

主文

少年を医療少年院に送致する。

理由

一  非行事実

少年は、

1、保護者の正当な監督に服しない性癖があつて、昭和四七年九月八日金沢市内で無免許でバイクを運転して交通事故を起し警察から呼出しを受けるや、その取調を逃れるため同日午後三時頃父所有の普通貨物自動車を無免許運転して東京方面へ家出しその後一旦金沢に帰つた後友人の普通乗用自動車を運転して岐阜方面に向け走行中同月一三日福井県金津警察署に保護され保護者に引渡され帰宅したが、翌一四日午前九時頃保護者の際をみて再度家出したものであつて、少年の性格・環境に照して将来罪を犯す虞れがある(昭和四七年少第九八八号)

2、(1) 同年九月一五日午後三時頃、○○中学校の同窓生であるA、B(いずれも少年)とともに、金沢市○○○×丁目×番地○○○○神社境内において折柄同神社の秋祭りに来ていた後輩の○○中学生数名を認めるや、その態度が生意気であるということからこれに因縁をつけて暴行を加えようと企て、同中学校二年生の○戸○尋外一五名の中学生(○野○彦、○村○康、○田○司、○田○、○島○太○、○藤○、○本○人、○内○、○場○、○山○、○島○治、○田○彦、○谷○之、○畑○彦、○井○晃)を次々に呼出し、同時刻頃より同日午後五時頃までの間、同神社裏にある同市○○○×丁目×番××号○○大学工学部運動場において、少年らは共同して右○戸○尋外一五名に正座させるとともに「生意気な奴はお前か」などと怒号し、次々に同人らの顔面および腹部などを手拳で殴打したり足蹴りにしコカコーラを口に含んで吐きつけるなどし、もつて数人共同して右○戸らに対し暴行を加えた。

(2) 同年八月三一日午後一一時三〇分頃、金沢市○○○町××番×号○○寺の墓地附近において、氏名不詳の窃盗犯人が同町××番×号○○○内○井○方玄関先から窃取して来た同人所有の中古自転車一台(時価一万円相当)を発見しこれを拾取しながら警察署に届け出る等正規の手続をとらずに自己の用途にあてるため使用し横領した(同年少第一〇七〇号)

3、同年九月七日午後一〇時三〇分頃、金沢市○○×丁目××番××号先路上において、○田○之(一六歳)に対し、「お前が警察であることないことを言うから迷惑したがや」と怒鳴りつけて同人の左前搏部を二回足蹴りにする暴行を加え、同人に対し全治まで一週間を要する左前膊打撲・皮下挫傷の傷害を与えた(同年少第一二一一号)

4、同年一〇月一三日当庁において試験観察決定を受け金沢市○○町×番×号○○商店○崎○雄方に身柄補導委託されたものであるが、同年一二月初頃から数回委託先で無断欠勤するなどの行為があり、昭和四八年一月九日少年の父所有の現金三万円を盗み出して翌一〇日夕方から深夜までパチンコ遊びやスナック喫茶店等で飲酒し、そこで知合つたCら数名の学生とドライブしようと企て、一一日午前零時三〇分頃委託先から前記○崎○雄所有の普通乗用自動車を無断で持出し、無免許運転して片山津のボーリング場などへドライブし帰途右自動車が故障を起すと小松市内に放置するなどの行為をなしたものであつて、少年は保護者の正当な監督に服さず、自己または他人の徳性を害する行為をする性癖があつて、その性格・環境に照らして将来罪を犯す虞れがある(昭和四八年少第二五号)

5、(1) 昭和四八年二月一四日午前零時頃、金沢市○○○○○××××番地○山○作方車庫内にエンジンキーを差し込んだまま停めてあつた同人所有の普通乗用自動車一台(時価三〇万円相当)および同車に積んであつた同人所有の螢光灯四個外一二点(時価合計四万三、五〇〇円相当)を窃取した

(2) D(少年)と共謀のうえ、同月一五日午前一一時五〇分頃、滋賀県坂田郡○○町○○○○×××番×号○○○食堂裏広場にエンジンキーを差し込んだまま駐車してあつた洋服仕立販売業○川○雄所有の普通乗用自動車一台(時価七〇万円相当)および同車に積んであつた同人所有の紳士服地五五着分外一六点(時価合計二三八万五、二〇〇円相当)を窃取した(同年少第二三九号)

6、窃取にかかる前記5(1)記載の普通乗用自動車で前記Dと走行中ガソリン代金等に窮し、右Dと共謀のうえ、

(1)  前方を走行していた自動車の運転手から金員を喝取しようと企て、同年二月一五日午前八時五〇分頃、滋賀県近江八幡市○○町地先国道八号線を普通貨物自動車で走行中の○辺○久○(二二歳)に対しいきなり停車を命じて同人を近くの田圃に連出し、交互にその事実がないのに「急ブレーキを踏んだのでよけそこねてガードレールにバンバーをぶつけた。どうしてくれる」等と怒号して因縁をつけ、さらに同人を同所附近の田圃の畦道に連出して同所に停めてあつた少年らの自動車の後部座席に連込んだうえ、少年において「俺達を誰れだと思つている。組の事務所が大津にある、そこへ連れて行こうか。二~三、〇〇〇円修理代を出せ、出さなければただではすまさんぞ」等と申し向けて右○辺を脅迫し、Dにおいて同人の顎や頬を指先で小突く等の暴行を加え、もし右要求に応じないときにはどのような危害を加えるかもしれないような気勢を示して同人を畏怖させ、その場で同人からその所有の現金二二〇円を交付させて喝取した

(2)  同日同時刻頃、同所に駐車中の前記○辺○久○の普通貨物自動車内から同人所有のガソリン給油券一冊を窃取した

(3)  右窃取にかかるガソリン給油券を利用してガソリン等を騙取しようと企て、同日午前九時三〇分頃、近江八幡市○○町×××番地株式会社○○商店石油部○○○○サービス・ステーションに赴き、自己等が同給油券の発行所である神崎郡○○○町○○○○○石油店より正当に交付されているもののように装つて同給油券を右サービス・ステーション店員○南○一○に提示し、同人をしてその旨誤信させほしいままに同人を介して同給油券にその交付を受けたガソリン等の数量を記入させもつて給油券一通を偽造し、同時にこれを行使してガソリン三二・四リットル、ガソリン一八リットル缶三個、一リットル入りエンジンオイル缶一個(時価合計五、六九六円相当)の交付を受けてこれを騙取した(同年少第二五〇号)

7、公安委員会の運転免許を受けないで、昭和四七年九月一三日午後六時一五分頃、福井県坂井郡○○町○○××番×号附近道路において普通乗用自動車(石××○××-××号)を運転した(同年少第三〇〇九号)

8、(1)公安委員会の運転免許を受けないで、

(イ)  昭和四八年二月七日午後四時四〇分頃、金沢市○○○町×××番地先道路から同市○○○○町を経て○○町を通り出発地までの約一〇キロメートルの間、同市○○町○××番×号○○運輸株式会社所有の普通貨物自動車(石××○××号)を運転した

(ロ)  同月一三日午後一〇時三〇分頃、同市○○町○××番地先道路から同市○○○町○××番地先道路までの約一〇キロメートルの間、同市○○町○××番地○○○○貨物運輸株式会社所有の普通貨物自動車(石××○××-××号)を運転した

(2) 前記(1)の(イ)記載の無免許運転中の同月七日午後四時四〇分頃、金沢市○○町×番×号先道路において、○○町方面から○○○町方面に向け時速約一五キロメートルで進行中、同所左側に駐車中の○○商店所有の普通貨物自動車(石××○××-××号)の側方を通過する際、自車前部左側を同車右側部に接触させ同車に約三、〇〇〇円の損害を与える物損事故を起したのに直ちに法令に定める事最寄りの警察署の警察官に報告しなかつた(同年少第三二七六号)

ものである。

二  前記非行事実に適用すべき法律

1の事実につき 少年法三条一項三号

2の(1)〃 暴力行為等処罰に関する法律一条

同 (2)〃 刑法二五四条

3〃 同法二〇四条

4〃 少年法三条一項三号

5の(1)〃 刑法二三五条

同(2)〃 同法六〇条、二三五条

6の(1)〃 同法六〇条、二四九条一

同 (2)〃 同法六〇条、二三五条

同 (3)〃 同法六〇条、一六二条一項、一六三条一項、二四六条一項

7および8の(1)〃 道路交通法一一八条一項一号、六四条

8の(2)〃 同法一一九条一項一〇号、七二条一項後段

三  処遇の理由

1、本件決定に至るまでの経緯

(1)  少年は前記非行事実記載の昭和四七年少第九八八号事件について身柄保護され、当庁では同年一〇月一三日一〇七〇号事件を併合のうえ試験観察とし、従前の勤務先の金沢市○○町×番×号○○商店○崎○雄方に身柄補導委託すると同時に、勤務の精励、無免許運転しないこと等の遵守事項を定めその履行を命じたが、少年は同年一二月初頃から同僚に馬鹿にされるとか仕事が単純で自分の主体性が生かされないこと等を不満として再三補導委託先を無断で抜け出す等怠業が目立つようになつた。当庁ではその都度補導委託先と連絡をとり、少年を激励し仕事を続けるように説得したが、長距離運送の自動車運転助手になりたいとの少年の願望が強く説得にも限界があるように思われたので、少年の気持を酌んで一二月末頃から一時○○○○の自宅から通勤で働かせることにし、その間他の仕事先を種々検討したが、少年の資質や無免許運転の虞れ等を考えると少年の希望に添うような仕事をみつけることはできなかつた。

(2)  少年は翌昭和四八年一月初頃には前記補導委託先で勤務する気持を全く失い、同月九日前記非行事実4記載のように父所有の現金三万円を盗み出し、一〇日夕方から自宅に帰らないでパチンコ遊びをしたりスナック喫茶店等で数名の学生と飲酒をした後、委託先の普通乗用自動車を無断で持ち出して無免許運転したので、当庁では同月一二日昭和四八年少第二五号事件を報告立件して観護措置をとり少年の身柄を保護するに至つた。

(3)  同年二月一日前件に昭和四七年少第一二一一号、昭和四八年少第二五号、三〇〇九号の各事件を併合のうえ第二回目の審判を開いたが、少年には嘘言傾向が強く、気分易変、感情爆発的といつた性格特徴が顕著で行動に一貫性がない等少年の性格の歪みの大きいことが窺われ、また少年の家系にはハンチントン舞踏病の遺伝的傾向があり少年自身これまで三回精神病院に入院して投薬を受けた経験があり脳波にも異常がみられたことから、少年の前記のような性格の歪みや反社会的行為がハンチントン舞踏病(同病は著明な遺伝病で不治であるのみならず進行性で、現在の医学水準では効果的な治療法がないとされている)と関係があるのではないか、仮りに少年が現在右舞踏病に罹患していないとしてもその前性格というべき性格異常が少年の非行の原因になつているのではないかとの疑問が生じて来た。そこで当庁技官(医師)の「少年には現在ハンチントン舞踏病を疑わせる症状は認められないが、少年の家系には同病の遺伝傾向が著しく数年ないし数十年後には発病する可能性は極めて大きく、少年の行動異常、脳波異常はこの素質にもとずくものと考えられる」との診断結果を参考にし、少年自身前回の補導委託付試験観察や少年鑑別所収容を多少ではあるが行動規制として捉えている様子が見られたこと、少年や保護者の強い希望があつたこと等の事情を考慮して、少年の前記のような資質を十分理解した○崎○雄への身柄補導委託を継続することにした。

(4)  しかし少年は試験観察継続直後は極めて真面目に働いたが、五日目位に委託先を無断で飛び出し、実兄の名前を騙り運転免許を受けていると嘘を言つて金沢市内の運送会社の自動車運転助手となり、その間前記非行事実8記載のように無免許運転を繰り返して物損事故を起し、同月一四日午前零時頃自宅附近の車庫内から普通乗用自動車を窃取し、少年鑑別所内で知り合つた前記Dを嘘言を弄して誘い出して右自動車で金沢市より逃走してから翌一五日午後零時三〇分頃長浜市内で緊急逮捕されるまで、前記非行事実5および6記載のように右Dとともに次々と犯罪を重ねていつたものである。大津家庭裁判所から5および6の事件の移送を受けた当庁は少年鑑別所内での少年の嘘言や興奮状態に陥つてガラス戸を破損したこと等の異常行動に鑑み、同年三月一〇日○○○園長医師○田○三郎に少年の現在の精神状態、精神医学的立場からみた少年の問題点につき鑑定を命じるとともに、同月一六日から四月一〇日まで少年を右○○園に鑑定留置する措置をとつた。

2、生活史

(1)  少年は昭和三一年一〇月一二日J・Z、J・M子の第三子として出生したが、実父は運送会社の運転手、実母は農業を営む傍ら日雇の仕事に行き経済状態は中流である。同胞として金沢市役所職員の兄と他家に養子にいつた姉がいる。実父は現在ハンチントン舞踏病に罹患し顔面、四肢に不随意舞踏病運動が現われ真直ぐに歩行することは困難な状態にあり、知能もかなり低下しており現在は田舎での生活であるため余り支障はないが、普通の精神活動はできない位である。実母、兄、姉はいずれも健康で母方の血族には精神病や遺伝性神経疾患に罹患しているものはいないが、父方の伯母、祖母はハンチントン舞踏病に罹患していたもので、少年の家系には右舞踏病の遺伝的負因が濃厚である。

(2)  少年は昭和三八年四月金沢市立○○小学校に入学したが、学校の成績は下位で忘れ物が多くまた友達も少なく社会性の乏しい生徒であつた。昭和四四年四月市立○○中学校に入学してからも、成績は下位で学習意欲はなく、怠学の傾向が現われ始め、嘘言、浪費等問題行動が目立つようになつた。また自動車やオートバイに対する異常な興味を持ちゴミ捨て場から拾つて来たオートバイをいじつたり耕運機にいたずらしたりしていたが、両親とも共稼ぎのためか教育には無関心で少年の世話を目の不自由な祖母に任せ、特に父は少年を放任し溺愛していた。

(3)  少年は中学二年生の頃から嘘言癖が一層顕著になり、例えば教師に何となく腹が立つたことを理由に兄と喧嘩して顔面に怪我したのを暴力団に殴られたとか、氏名不詳者から現金を恐喝されたとか嘘を言い、その証拠として担任の教師に少年が偽造した手紙や録音テープを見せる等して学校等を慌てさせたことがあつた。そこで担任教師のすすめもあり昭和四五年五月二五日精神病院○○病院に入院次いで精密検診のため六月一日から○○大学附属病院神経精神科に転医し七月六日まで入院して種々の検診を受けたが、その結果は「知能は正常の下限程度で性格には軽佻性その他の特徴がみられる。自己の非行に対する真の内省に乏しい。このような人格障害は脳波異常、気脳写による軽度の脳萎縮で示された脳障害に関連したものとみなされるが、また家庭での躾が行き届かなかつたことも関係しているものと考えられる」との診断がなされた。

(4)  少年は退院後復学したが相変らず怠学、嘘言癖が目立ち、「自分は秘密公安委員だ」と称して花火遊びをしていた下級生を折檻しその両親の前で殴りつける等の異常行動がみられたので、昭和四七年一月二六日精神衛生法二九条の入院措置で前記○○病院に入院し、向精神薬等の投与を受けた。○○病院における診断は「脳波異常を伴う行動異常――嘘言、道徳感情低下、知能低下、落着欠如、登校拒否、反社会的行為、気分易変その他」というものであつた。

(5)  同年四月二七日同病院を退院し母方の叔父の世話で前記補導委託先の○○商店に住込みで勤務することになつたが、同僚との折り合いが悪いうえ問題行動も多く七月頃には東京支店へ転勤させられたが、金沢に帰りたいため仮病を使い救急車で病院に運ばれるという騒ぎを起したこともあつた。八月一〇日頃に前記○○商店を辞めて金沢に帰つてからは理髪店やクリーニング店でそれぞれ三日間位働いただけで無為徒食の生活を送り、その間友人のバイクを無免許で乗り回して九月八日には横断歩道を渡つていた歩行者をはねる交通事故を起し、その後は前記非行事実に記載したように犯罪や虞犯行為を繰り返して来たものである。

3、少年の性格上の問題点

(1)  少年鑑別所での鑑別結果によると、少年は知能指数七九~八七(限界域)にあり、性格的には気分の不安定性および軽躁性が特徴的で、抑うつ的で不活発な場合があるかと思えば逆に活発、多動、多弁で気分の昂揚したときもある。さらに甘え、依存性が少年の性格像の核心にあるようで、困難や苦痛に直面すると小児的な退行反応にも出るところがあるとされている。

(2)  鑑定人○田○三○作成の精神鑑定書も前記鑑別結果と同じような少年の性格特徴を指摘している。つまり、少年は、我儘で自己中心的であり、自分を実際以上に見せかけようという欲求が人一倍強くそのため空想的で嘘言癖があり、他人に対する依存心が強く、困難な現実に対処できなくなるとより原始的な退行現象としてのヒステリー発作が出現し(顕示性性格)、気分が変化しやすくごく些細なことで不機嫌になり(気分易変性性格)、また物事の意味や結果を充分に考えないで衝動的に激昂して乱暴を働き(爆発性性格)、意志の決定性と持続性に欠け(意志欠如性性格)、人間的な情性の未発達な側面も目立つ(情性欠如性性格)少年であり、このような著るしい性格偏倚が種々の社会的適応障害を惹起しているものと考えられる。少年鑑別所内でガラス戸を破損した等の異常行動や鑑定留置中の発熱・頭痛等を伴つた興奮状態も、少年が「少年院に入りたくない」という強い願望を持ち、それが極めて困難であるという現実に対処出来ないまま原始的な生物機構を利用して疾患に逃避しまた周囲の関心を自分に惹き付けようとして無意識のうちにヒステリー性の発作を起したものであり、これらは感情の未熟な幼児的な少年の性格に由来しているものと理解される。そして少年の家系にハンチントン舞踏病の遺伝的負因が極めて濃厚であり、しかもこれに加えて家庭内では少年を溺愛・放任し基本的な躾が殆どなされなかつたこともあり、このように生来性の素質に環境因子が交互に作用し合つて発展的に未熟・幼稚でその欲動のままに抑制なく行動するような現在の偏倚の著るしい性格が形成されたものである。

4、結論

(1)  前記鑑定書から認められるように、少年にはハンチントン舞踏病の遺伝的負因が極めて濃厚であり、また著明な異常脳波所見があり気脳写により脳実質の軽度の萎縮がみられるところから、脳器質性障害が存在しその行動

異常の原因となつていることは充分推測され、将来三〇歳前後になつてハンチントン舞踏病が発病する可能性が極めて大きいけれども、現時点では未だハンチントン舞踏病の症状は現われていないので精神衛生法上の措置をとることはできない。

(2)  しかし、少年には前記のような著るしい性格偏倚があり、これまでの非行歴、少年自身自己の行動につき内省できないこと、保護者の監督能力が期待できないことなどの事情を考えると、少年が充分な基本的躾を受けないでこのまま社会に放置されると少年はますますその異常性を高め、従来と同様の非行を重ねて無免許運転による人身事故を惹き起す虞れがあるばかりではなく、身体の発育に伴い粗暴な犯罪を犯す危険性が極めて大きく、また性的関心が高まつたときには性犯罪を犯すことも十分に予想しうるところである。したがつて社会防衛の意味からも少年の保護のためにも少年を適当な施設に収容して強力な矯正教育を施す必要があるものと考えられるが、鑑定人の指示するように、少年の異常脳波所見に対しては抗てんかん剤を投与し、行動異常には向精神薬を服用させることが少年の異常行動を抑制することに役立つと思われるので、右のような薬物療法や精神療法による医学的治療と情操教育等の矯正教育が同時に行いうるような施設に収容保護することが望ましい。そこで少年院での医療措置や矯正教育に期待して少年を医療少年院に送致することにし少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年院法二条五項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 高橋省吾)

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